2025/05/11Copyright/著作法
生成AI規制とエンタメ産業の行方──米国立法の最新動向と日本への提言
2024年以降、米国では「生成AIによる著作物・パフォーマンスの無断使用」に対する規制強化が急速に進んでいます。特に、俳優の肖像・声・演技をAIで再現する「デジタル・リプリカ」に関して、労働組合SAG-AFTRAやWGA(脚本家組合)を中心に、州議会・連邦議会での法整備が加速しています。
本稿では、カリフォルニア州と連邦議会における最新の法案(AB 412/H.R. 7913)の要点と懸念点を整理し、日本のエンタメ産業・法律実務に対する示唆を考察します。
米国で進む二重の立法:AB 412 と H.R. 7913 の要点
🏛 カリフォルニア州法案(AB 412)
2025年3月、「A.I. Copyright Transparency Act(AB 412)」が州議会を通過しました。主な内容は以下の通りです:
- AIモデル訓練に使用した著作物リストの開示義務
- 出所不明なデータの使用禁止
- 無許諾使用に対する民事責任の明記
本法案は、俳優やパフォーマーの人格的利益に重きを置いた制度です。
🏛 連邦法案(H.R. 7913)
2024年4月に提出された「Generative AI Copyright Disclosure Act」では、より制度的・包括的なルールが提案されています:
- モデル公開30日前までの訓練データの届出義務
- 既存モデルへの遡及適用
- 届出義務違反に対する罰金の導入
こちらはAI開発側の説明責任と透明性を重視しています。
実務上の課題と制度的懸念
- 全件開示の現実性:膨大なトークン数に及ぶ訓練データを完全に開示・管理するのは現実的とは言いがたい状況です。
- 遡及適用の憲法的リスク:既存モデルに対する規制は、信頼保護原則や事後法の問題と衝突する可能性があります。
- 州法と連邦法の競合:異なる義務が併存することで、企業側のコンプライアンス負担が増大しています。
🎯 日本における制度設計への提言
日本においても次のような「機能しうる小さなルール」の積み上げが求めらるのではないかと思います。
① 契約の中で先回りを
俳優・声優・作家との契約には、AI訓練・生成利用に関する明示的な同意条項を組み込むべきです。
「使われるのは当然」から、「使うなら説明を」という方向性にシフトするのが望ましいと思われます。
② データ提供の「見える化」
AI開発者が何を使ったのか、どこまで開示するのか。少なくとも商用モデルについては、届出制度や説明責任ガイドラインの創設が必要です。
ブラックボックス状態を少しでも緩和し、「何が使われたのか」を説明可能にする仕組みがあるだけで、業界全体に安心感が生まれます。
③ 公的対話の場を設ける
「知的財産戦略本部やAI検討会など既存会議体をベースに、『生成AIとエンタテインメント法務』を専門に扱うワーキンググループを設置し、法制度・ガイドラインを迅速に議論・調整することが望まれます。
④ 「守られる側」からの行動規範を
俳優・声優・音楽・映像などエンタテインメント業界団体が、自主的なAI利用ガイドラインを外部に発信することが重要と思います。
「自分の声・姿がどこで、どのように使われるか」は、個人の尊厳に直結するテーマです。
おわりに
生成AIの進化がもたらす「便利さ」と「不安」は、法制度の遅れによってますます拡大しています。いま求められているのは、クリエイターと開発者が安心して共存できる、透明で予測可能なルールの整備です。
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当事務所では、生成AIをめぐる契約実務や権利保護に関して、以下のようなご相談を承っております。
- 契約書におけるAI利用条項の見直し
- 肖像・声データの利用に関する同意取得の手続
- 無許諾利用への対応や差止請求に関する法的助言
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