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2021/12/09ブログ

NFT化する権利〔タランティーノケースを踏まえて〕

NFT(Non Fungible Token;非代替性トークン)は、ブロックチェーン技術を用いて、デジタルコンテンツの唯一性(非代替性)を作り出しています。2021年に入ってNFTが急速に浸透してきました。こうしたNFTは、絵画などアート作品、音楽やスポーツなど利用例が日に日に増加しています。つい最近は、Twitterの創業者ジャック・ドーシー氏が最初のツイートをNFT化してオークションにかけたところ、日本円で約3億円超で落札されたことがニュースになりました。ブームになりつつあるNFTですが、技術が先行しており、法律が追いついていないのが現状です。

今回は、コンテンツをNFT化することができるのは誰か、NFT化(Minting)する権利について考えてみたいと思います。

あるコンテンツをNFT化することは、簡単にいえば、そのコンテンツのデジタルデータに電子的な証明書を付すということになります。この行為自体は、コンテンツの複製等が生じるものではないため、著作権でコントロールすることはできません。もっとも、NFT化の過程でコンテンツデジタルデータの複製やプラットフォームへアップロードしたり、NFTを販売する際にコンテンツデジタルデータをWEBサイトに表示するなどの行為が行われていれば、著作権が働くことになります。
しかしながら、NFT化すること自体は、著作権では規制できません。このため、NFTプラットフォームの利用規約ではNFT化するコンテンツについて著作権をはじめ一切の権限を得ていること、他人の著作権等を侵害していた場合に当該NFTを削除することが定められています。

こうしたコンテンツのNFT化という新たなコンテンツ利用法の登場は、既存のコンテンツについて、NFT化する権利が誰にあるかという問題が生じると思います。その先駆けとなるケースが、クエンティン・タランティーノ監督対Miramax社の映画「パルプ・フィクション」の脚本のNFT化を巡る事案です。

概要は、次のとおりです。

タランティーノ監督は、2021年11月2日に、「パルプ・フィクション」の手書きのオリジナル脚本(誤字や取り消し線が入ったもの)のうち7つのシーンの脚本部分をNFT化して販売することを発表しました。

単に脚本をスキャンしたものではなく、タランティーノ監督が撮影や創作過程の秘話の音声付きコメントが付されており、購入者は、一切秘密にするか、仲間内に開示するか、公けにするかを選択することができる、とされています。
Tarantino NFT Collection: https://tarantinonfts.com

これに対し、「パルプ・フィクション」を製作・公開したMiramax社は、2021年11月16日、タランティーノ監督との契約上、NFT化する権利を含め脚本に関する権利はMiramax社にあり、タランティーノ監督に留保された権利はごくわずかであり、Miramax社の同意なく脚本をNFT化して、販売することはできないなどとして契約違反、著作権侵害等に基づき、販売停止等を求めて提訴しました。

Miramax社の訴状によれば、1993年に締結したタランティーノ監督との契約において、タランティーノ監督はMiramax社に対し、同監督に留保された権利(Reserved Rights)を除いて、映画「パルプ・フィクション」に関する一切の権利を、全世界において永久に許諾したと主張しています。

許諾された権利の原文は次のとおりです。

all rights (including all copyrights and trademarks) in and to the Film (and all elements thereof in all stages of development and production) now or hereafter known including without limitation the right to distribute the Film in all media now or hereafter known (theatrical, non-theatrical, all forms of television, home video, etc.) 

現在または将来知られるあらゆるメディア(劇場、非劇場、あらゆる形態のテレビ、ホームビデオなど)において本作品を配給する権利を含むがこれに限定されない、 現在または将来知られている本映画(および開発・制作のあらゆる段階にある本作品のすべての要素)に関する一切の権利(すべての著作権および商標を含む)

かなり広範囲に規定されています。1993年当時は、NFTが登場することは全く想定されずに契約を締結していたものと思われますが、将来的に登場するであろう新しい権利やメディアに対応するように備えていたことは理解できます。もっともこうした権利は、映画「パルプ・フィクション」に関するものとも読めます。

これに対し、タランティーノ監督に留保された権利は次のとおりです。

soundtrack album, music publishing, live performance, print publication (including without limitation screenplay publication, “making of” books, comic books and novelization, in audio and electronic formats as well, as applicable)interactive media, theatrical and television sequel and remake rights, and television series and spin off rights.

サウンドトラック・アルバム、音楽出版、ライブ・パフォーマンス、印刷出版(脚本の出版、「メイキング」本、コミック本、ノベライズ、オーディオおよび電子フォーマットを含むがこれらに限定されない)、インタラクティブ・メディア、劇場およびテレビの続編・リメイク権、テレビシリーズおよびスピンオフ権。

太字で強調した部分を読みますと、脚本の出版に関する権利がタランティーノ監督に留保されていることが分かります。脚本は、映画とは別の著作物ですので、脚本のNFT化はこちらの方に含むと解釈されそうです。

この点、Miramax社の主張は、米国著作権法では、少数の者に対し少数のコピーを頒布する行為はpublicationにあたらず、タランティーノ監督のNFT販売は、脚本の出版に該当しないというものです。ただ、NFT購入者は、広く公開することも認められていますので、必ずしも上記に該当するようなものではない、と指摘されています。

著作権侵害は、NFT化自体が著作権侵害と主張するものではなく、当初、Tarantino NFT CollectionのWEBサイトには、映画「パルプ・フィクション」に登場したサミュエル・L・ジャクソンやジョン・トラボルタが扮したキャラクターの画像(Miramax社が著作権を保有)が無断使用されており、その侵害を主張するものでした。

今後、NFT化が盛んになるにつれて、コンテンツのNFT化に関するこの種の訴訟は増えるものと思われます。ライセンスをしているコンテンツをNFT化する場合、契約書の内容をよく確認することが重要になってくると思います。

著作権法に新しい権利が創設された場合、それ以前に締結した譲渡契約において創設された権利が譲渡されているか否かが争われた事案としてThe BOOM事件(東京地判H19.1.19)があります。アーティストとレコード会社がレコード製作のために締結した共同原盤譲渡契約において、アーティストがレコード会社に対し、原盤に関してアーティストが有する一切の権利(著作隣接権・著作権を含む)を譲渡する合意がなされていました。その後、著作権法に、送信可能化権が創設され、この権利も上記契約で譲渡されているかが争われました。

裁判所は「当該条項の文言自体及び本件各契約書中の他の条項のほか、契約当時の社会的な背景事情の下で、当事者の達しようとした経済的又は社会的目的及び業界における慣習等を総合的に考慮して、当事者の意思を探求し解釈すべき」として、立法経緯、送信可能化権が働く音楽配信サービスの状況、音楽業界における原盤製作の実態等を踏まえ、具体的な契約内容を詳細に検討して、「一切の権利」を「何らの制限なく独占的に」譲渡する旨の規定があることなどを根拠として、送信可能化権も譲渡の対象となっていると判断しました。

これから締結される契約においては、確実に、NFT化する権利やメタバース内で使用する権利などが明記されることになるでしょう。

弁護士大橋卓生

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