2026/02/17ブログ
「雪に消えた3回目」ミラノ・コルティナ五輪スキージャンプ途中打ち切りの規則と裁量
2026年ミラノ・コルティナ五輪のノルディックスキー・ジャンプ男子スーパー団体(2人1組の新種目)で、最終の3回目が大雪と風で進行不能となり、途中で打ち切られました。大会運営は「2回目までの成績」を最終結果として確定し、オーストリアが金、ポーランドが銀、ノルウェーが銅となりました。日本は2回目終了時点で6位でしたが、3回目の途中経過では一時メダル圏に迫る展開が報じられており、この「飛んだ選手がいるのに、その3回目自体が無効になる」形式が強い不満を生みました。雪が弱まったのが打ち切りの直後だった点も、感情面の火種になっています。
ルール
結論からいいますと、今回の「2回目までで確定」することは、競技ルールが明示的に予定するものです。
FISスキージャンプ国際競技規則(ICR)は、原則として2回の公式競技ラウンドを前提にしつつ、例外として「第2ラウンドが実施できないほどの悪天候」では第1ラウンドの合計を最終結果にする、と定めています(ICR452.2.2)。重要なのは、同条がさらに「3競技ラウンドが予定される競技でも(この場合、結果は第1又は第2ラウンド後に最終と扱い得る)」と明記している点です。つまり、3回目が予定されていても、悪天候で成立しないなら1回目または2回目の時点で最終確定になるということになります。
ICRはジュリーの職責として、風況やスタートゲートのみならず「競技を中断、延期、取消すべき必要性」を判断する権限と責任を定めています(ICR 402.1.2.3)。
競技終了後に結果が公式なものとなるまでの異議申立て(プロテスト)時間について、ICRは「原則として競技終了後15分」と定めています(ICR 433.5)。
「不公平」と「覆る」は別問題
今回の争点は、競技者の直感としては「途中まで進んだ3回目を全否定するのは不公平だ」という一点に集約します。ただし、法的に争う場面では、次の二点に分けて考える必要があります。
1 ルール適用の当否
上記のとおり、ICRは「3ラウンドの予定でも、悪天候なら1回目または2回目で最終化し得る」旨を明記しています。
したがって、少なくとも「規則の射程外の運用」と位置づけるのは困難です。争うなら、事実認定として「本当に『例外的に悪い天候』で、3回目を成立させられなかったのか」「他の選択肢(待機、順延、やり直し)を排除した判断が合理的だったのか」という、裁量の問題になります。
2 スポーツ仲裁の検討
五輪期間中はCASのアドホック仲裁が稼働し、迅速に紛争処理できるインフラがあります。
しかし、競技中の判断は典型的に「フィールド・オブ・プレー」の領域と整理され、CASは原則として介入しません。過去の例からも、フィールド・オブ・プレーの判断は、申立人が「悪意」や「恣意性」などを立証できる例外的場合を除き、審査対象にしないという立場が明確に示されています。今回のような天候判断は、まさにこの高い壁の中心に位置します。
実務的な示唆
1 選手、チーム、NOC側
3回目の途中で中止判断をした過程の透明化と再発防止(運用改善)に主眼を置く方が現実的です。プロテストの時間制限(原則15分)を前提に、ジュリーの判断の根拠となったデータとタイムラインの保全を最優先にします。競技会場での判断は後から覆りにくいからこそ、後追いの感情論ではなく、当時の現場における判断資料を押さえることが鍵になります。
2 競技団体、組織委員会側
法的に正しいかどうかとは別に、ガバナンスとしての最重要課題は透明性の確保です。打ち切り判断は、競技の安全確保と公正確保の調整ですが、外部から検証可能な形で根拠を提示できなければ、手続の透明性欠如として信頼を毀損しかねない事態になります。
改善策としては、少なくとも「どの観測情報(風、降雪、助走路、視界)を根拠に」「いつ」「どの選択肢を比較して」打ち切ったのかを、簡潔でもよいので即日で公表する運用が望まれます。裁量による例外的な処理ほど、説明の遅れは不信の温床になるものと思います。
まとめ
今回の途中打ち切りは、ルール上は「想定内」であり、CASアドホック仲裁で覆すことが困難な類型です。
他方で、スポーツのインテグリティは、結果の正確さだけでなく手続の公正さで支えられています。特に五輪などの重要な大会では、運用の一度のつまずきが競技の信頼そのものを揺らし得ます。法務の立場からは、競技の安全と公正の両立を前提にしつつ、判断根拠の可視化と記録化の仕組みを整備することこそが、次回大会のリスク低減と信頼確保に最も資する投資です。
免責
本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的事案では、適用規程、通知経緯、期限、証拠状況により結論が変わり得ます。

