Baseball/野球

2021/12/28Baseball/野球

マイナーリーグ再編問題 – MLB vs MiLB –

2020年秋、約120年続いたマイナーリーグ(Minor League Baseball;MiLB)が終焉を迎えました。2021年のシーズンからは、メジャーリーグ(Major League Baseball;MLB)の管理下で”Professional Development League”として稼働しています。

MiLBにとって大きな転機となった2020年シーズンは、新型コロナウイルスのため、シーズン自体がキャンセルされました(MiLBとしては2019年が実質的なラストイヤーでした)。そして、MiLBがMLBと締結していた、MLBとMiLBとの関係などを定めた”Professional Baseball Agreement”(’PBA’)が期間満了となりました。

MiLBは、1901年9月5日、14リーグ・95球団からなる”The National Association of Professional Baseball Leagues”(’NA’)を組成し、1903年にMLBとPBAを締結しました。このPBAによって、NA傘下の球団は、個々のMLB球団と提携し、選手をMLBに昇格させることが可能となりました。マイナー球団とMLB球団が提携するためには、さらに”Players Development Contract”(’PDC’)を締結することになります。PDCに基づいてMiLBの球団は提携したMLB球団に入場料収入の8%を支払うことになっていたようです。ちなみに、NAから”Minor League Baseball”と改称したのは、1999年です。

2019年には、MLB球団30球団に対してMiLBは160球団となっていました。MLBは、PBAが期間満了となる1年前の2019年秋頃に、MiLBの再編案(160チームから120チームに削減し、リーグ再編など)を出していました。報道によれば、MiLBは独立性を維持したかったようですが、コロナ禍の影響が経営が圧迫されたことが大きかったようで、MLBの提案を受け入れることになりました。MLBの提案は、MiLBがチームを削減し、MLB傘下に入り、MiLBのクラスや各リーグの再編(地理的な面も含めて)を行うことで、効率的に球団経営を行うとともに、球場やトレーニング場など施設を改善し、MLB球団のマーケティングパワーを利用することで収益を上げていくというものでした。また、MLB傘下に入ることで、MiLB球団に所属する選手の給与は、最低保証額の引き上げにより、38〜72%昇給するとのことでした。

新生MiLBは、従前の6クラス(AAA、AA、A+、A-、Short Season(A)、Rookie)からShort SeasonとRookieリーグが削減され、4クラス(AAA、AA、A+、A-)となり、各MLB球団は各クラス1球団(計4球団)と提携することになりました。PBA失効後、MLB球団は、再編計画に従って、各クラスから1球団と提携し、2020年12月にMLBと提携したMiLB120球団に10年間のライセンスが付与され、提携できなかった40球団が削減されることとなりました。MLB球団とMiLB球団の新たな提携関係はこちらに詳しく紹介されています。

さて、本題はここからです。2021年も終わりかけた2021年12月20日、削減された元MiLBの4球団がMLBを相手に訴訟を提起しました。

訴えを提起した4球団は、Staten Island Yankees(元ヤンキースのシングルA)、Tri-City Valley Cats(元ヒューストンアストロズのシングルA)、Salem-Keizer Volcanoes(元サンフランシスコ・ジャイアンツのシングルA)、Norwich Sea Unicorns(元デトロイト・タイガースのシングルA)です。いずれもMLB球団との提携を失って、2021年からは独立リーグに参加しているようです。

訴状によれば、訴えた理由としては、大要、MLBと傘下のMLB30球団が、MLB球団オーナーの収益改善し、MLBによるプロ野球の統一的な管理するために、意図的にMiLBの球団数削減を企てたとし、これはMLBのプロ野球支配を強固にするための水平的合意であり、シャーマン法(反競争法)1条によって禁止される、というものです。

シャーマン法1条は、州間の取引や商業活動の不当な制限を禁止しており、水平的取引制限(水平カルテル)もここに含まれます。今回のMLBと傘下の30球団によるMiLB再編はこの水平的取引制限にあたるという主張です。

米国でプロ野球と反競争法といえば、100年前の判例Federal Baseball Club v. National League, 259 U.S. 200(1922)が想起されます。このFederal Baseball事件では、プロ野球が州間の取引や商業活動にあたるかが問題となりました。連邦最高裁は、野球を見せることは、完全に州における出来事であり、州間の取引に該当しない、と判断しました。これがBaseball Exemptionの始まりです。

今回の元MiLB球団の提起した訴訟は、こうしたBaseball Exemptionに対する挑戦と言われています。そのきっかけっとなったのは、2021年6月に出されたNational Collegiate Athletic Association v. Alston, 594 U.S(2021)の連邦最高裁判決と思われます。この事案は、アマチュア規定に基づく学生アスリートに対する現金以外の教育関連給付の制限のシャーマン法違反が問題となったものです。

元MiLBの4球団は、訴状の中で、Alston事件の連邦最高裁判決(全会一致)において、裁判所は、Federal Baseball事件のBaseball Exemptionについて「非現実的」「一貫性がない」「異常だ」という批判を認めていることを強調しています。また、Federal Baseball事件以降のBaseball Exemptionが保留条項(Reserve Clause)について適用されたもの(Flood v. Kuhn, 407 U.S. 258 (1972)やPiazza v. Major League Baseball, 831 F. Supp.420,435-36(E.D.Pa.1993)など)であり、本件についてBaseball Exemptionの先例拘束性はない、と主張しています。

ちなみに、同じプロスポーツリーグであるNFLやNBAなどにはBaseball Exemptionは適用されません。Radovich v. National Football League, 352 U.S.445(1957)や先に紹介したAlston事件などにおいて、連邦最高裁は、Baseball Exemptionはプロ野球のみに適用されるとしています。プロ野球も他のプロリーグも、ホーム&アウェイで州をまたいで行き来して、試合を見せており、本質的に変わるところはありません。野球がナショナルパスタイムとして特別視された時代を知らないので、現在において、野球だけが特別視される理由がよく分かりません。

同じように野球が特別視されたファウルボール事故訴訟では、Baseball Ruleという免責ルールが存在していましたが、10年前くらいから崩れ始め、今やMLBの球場は防球ネットが拡張されています。

このBaseball Exemptionも崩れる時が来るのでしょうか。この訴訟の結論が出るまでに時間がかかると思いますが、フォローしていきたいと思います。

弁護士 大橋卓生

《参照サイト》
https://www.milb.com
https://www.baseballamerica.com/stories/a-timeline-of-professional-baseball-agreement-negotiations-between-mlb-minor-league-baseball/
https://www.blessyouboys.com/2020/11/4/21546362/mlb-takeover-of-minor-league-baseball-is-almost-complete
https://www.usatoday.com/story/sports/mlb/2021/12/20/mlb-sued-by-4-former-affiliates-over-minor-league-cuts/49553247/

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