Football/サッカー

2026/07/21Football/サッカー

EU司法裁判所が示したスポーツ団体の「条件付き自治」―FIFAエージェント規則と懲戒処分の射程

2026年7月16日、EU司法裁判所は、FIFAのサッカーエージェント規則と、イタリアのサッカー団体による役員への資格停止処分をめぐる二つの判決を言い渡しました。共通する結論は明快です。スポーツ団体には競技の公正性や関係者保護のための規律権限があるが、その自治はEU法の適用を免れるものではない、ということです。規則の設計から処分手続、司法的救済、個人データの公表に至るまで、客観性・必要性・比例性の説明が求められることになります。

背景と確認できた事実

RRC Sports事件(C-209/23)は、ドイツのサッカーエージェントらが、2023年版FIFA Football Agent Regulations(FFAR)などに含まれる報酬上限、複数当事者の代理制限、顧客への接触制限、ライセンス要件、スイス法への準拠・FIFA/CASの管轄への服従、取引・制裁情報の収集公表を争った事案です。ドイツの裁判所がEU司法裁判所にEU法の解釈を求めて付託したものです。

FIGC・CONI事件(併合事件C-424/24、C-425/24)は、ユヴェントスの元会長らに対する24か月の資格停止処分が発端となった事案です。処分はUEFA・FIFAを通じて世界的に拡張された一方、イタリアの制度上、スポーツ上の不服申立てを終えた後の行政裁判所は、原則として損害賠償しか命じられず、処分の取消しや停止ができないとされていました。

法的なポイント

1 スポーツ団体の自治はEU法から免除されない

両判決の基調は、スポーツ固有の事情を尊重しつつも、団体の私的性格や国内法上の自治を理由に、EU法の適用を免れることはできないという点にあります。競技の健全性、利益相反の防止、選手やクラブの保護、財務・会計規律は正当な目的となり得えます。しかし、規則は一貫して適用され、透明かつ客観的で非差別的な基準に基づくものでなければならず、目的達成に必要な範囲を超えてはならない、としています。

2 FIFA規則は「全面無効」とされたわけではない

結論の強弱を区別する必要があります。EU司法裁判所が規則内容を明確にEU法違反としたのは、FFAR19条(d)・(e)による、エージェントや依頼者に対する「あらゆる制裁」と「すべての取引の詳細」の包括的公表についてです。自然人の個人データに当たる限度で、必要性、重大性、掲載期間等を区別しない公表はGDPR6条1項(f)に反するとしました(判決370、380~384項)。規則執行に必要な情報をFIFAが収集すること自体まで否定したものではありません。

競争法上、最も厳しく評価されたのは、契約満了前の勧誘を禁じながら既存の専属エージェントを例外扱いする規則と、代理人が関与していない後続移籍を理由に過去の取引の未払報酬を失わせる規則であり、いずれも「目的による競争制限」となり得るとされました(判決170、212、233項)。もっとも、条文解釈、事実認定及び差止めの範囲はドイツの付託元裁判所に残委ねられています。

一方、報酬上限は直ちに価格カルテルとは認定されていません。上限の範囲内でも価格、サービスの品質、革新をめぐる競争が残るためであり、実際の競争制限効果、顧客保護目的、より制限的でない代替策の有無をドイツの裁判所が審査することになります。複数代理の制限やライセンス要件も、利益相反の防止や専門性の確保のための措置として比例的であれば正当化の余地があります。

さらに裁判所は、FIFAが自らエージェント業を営んでいなくても、規則制定・承認・制裁権限によって隣接市場を支配し得るとして、EU機能条約102条の審査対象になり得るとしました。スポーツ統括団体が「規制者」と「市場への入口の管理者」を兼ねる場合、自己利益や競争者排除を防ぐ仕組みが必要となります。

3 内部不服申立てがあっても、実効的救済が必要である

FIGC・CONI判決は、24か月・全世界の資格停止処分やイタリアの救済制度を、それ自体として違法とはしていません。世界的な資格停止処分は労働者・サービスの自由移動を制約するが、クラブの財務・会計規律と大会の公正を確保するため、透明・客観的・非差別的な量定基準に基づき、行為の性質、重大性、期間を考慮して比例的に科されるなら、正当化され得るとしました(判決75~80項)。具体的制裁の比例性はイタリアの付託元裁判所が判断することになります。

また、通常裁判所が損害賠償しか命じられない制度も、常にEU法違反となるわけではありません。最終審のスポーツ紛争機関が、法律に基づいて設置され、独立・公平で、防御権を保障し、処分の取消しや必要な暫定措置を含む実効的審査を行えるEU法上の「裁判所」であれば、一層制でも足りうることになります。逆に、その要件を満たすスポーツ司法機関が存在しないのに、国家裁判所にも取消し・暫定措置を認めず損害賠償だけに限定する制度は、実効的司法保護に反するものとしています(判決87~92、113~121項)。CONIの最終審機関が実際に要件を満たすかは、付託元裁判所の判断に委ねられました。

4 判決の射程には限界がある

いずれも先決裁定であり、EU司法裁判所が国内紛争の最終結論を出したものではありません。特にFIGC・CONI事件では、競争法、制裁根拠の明確性、罪刑法定主義などに関する質問は、付託決定の説明不足により不受理とされました。したがって、同判決を「スポーツ団体の懲戒規則全般を無効にした」と読むことはできません。

実務への影響

EUでは、国際競技団体だけでなく、競技資格、代理人、移籍、報酬、懲戒、公表を実質的に支配する各団体が影響を受けるものと思われます。規則に公益目的を掲げるだけでは足りず、市場への影響、代替手段、制限の必要性、定期的な見直しを裏付ける資料が重要になるものと思われます。CAS等への仲裁合意自体が否定されたわけではありませんが、EU法違反を実効的に審査できる裁判所への道を閉ざすことはできないという、Royal Football Club Seraing判決の流れとも整合するものです。

日本では両判決に直接の拘束力はありません。ただし、日本の選手、クラブ、エージェントがEUで活動する場合や、国際団体の処分がEU市場にも及ぶ場合には直接の実務課題となります。また、国内制度の設計にも比較法上の有力な指針を与えるものと思います。公正取引委員会は既に、スポーツ分野の移籍制限について、目的の合理性、必要性、競争への影響を個別に検討する考え方を示しています。スポーツ庁のガバナンスコードも、懲戒基準の明確化、中立・専門的な判断者、弁明の機会、理由の通知、不服申立ての整備を求めています。

もっとも、日本スポーツ仲裁機構の仲裁には当事者の合意が必要であり、日本の裁判所による仲裁判断の審査範囲もEU法上の仕組みとは異なります。そのため、EU判決をそのまま移植するのではなく、規則の合理性、審査機関の独立性、暫定救済の有無を点検する制度設計上の指標として用いるべきと考えます。個人情報保護法についてもGDPRの結論が自動的に当てはまるものではありませんが、制裁や取引情報の全面・無期限公表を避け、目的、対象者、項目、期間、匿名化の可否を事前に定めることが望ましいと考えます。

実務上の対応

  • 競技資格、移籍、代理人、報酬、懲戒、公表に関する規則を棚卸しし、影響を受ける市場と関係者を特定する。
  • 正当目的を後付けにせず、必要性、代替案、競争制限の程度を議事録や影響評価に残す。
  • 制裁基準を透明・客観的・非差別的にし、行為の重大性、期間、反復性などを個別に評価する。
  • 不服申立機関の選任方法、任期、利益相反、取消権限、暫定措置、理由提示を点検する。
  • 情報公表は、目的、閲覧者、項目、重大性、掲載期間、匿名化、処分確定前後を区分する。
  • ドイツ・イタリアの付託元裁判所の判断と、FIFA等による規則改定を継続確認する。

まとめ

この2判決が示したのは「スポーツ自治の終わり」ではなく、「説明可能な自治」への転換といえます。スポーツ団体は競技の公正や関係者保護のために規律権限を有しています。しかし、市場アクセスを制限し、職業活動を止め、個人情報を公表する以上、目的と手段の均衡、独立した審査、実効的な救済を示すことが肝要と考えます。この枠組みは、EUで活動する日本の関係者に直結するだけでなく、日本のスポーツ団体が規則と紛争解決制度を見直す際の実践的な基準になりうるものと思います。

弁護士 大橋卓生

 

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