Copyright/著作法

2022/03/16Copyright/著作法

Sam Smith “Dancing with a Stranger” 音楽著作権訴訟

ヒット曲には著作権侵害訴訟が伴うのが米国の流れになっている感じですが、また新たな音楽著作権侵害訴訟が提起されました。

特定の短いフレーズが似ているとして音楽著作権の侵害訴訟訴訟が起こされるケースは米国では多いですね。有名なところでは、古くはGeroge Harrisonさんの”My Sweet Lord”事件、近年ではLed Zeppelinの”Stairway to Heaven”事件、Katy Perryさんの”Dark Horse”事件などがあります。

Sam Smithさんに関しては、過去に、訴訟にはなっていませんが、2015年にグラミー賞を受賞した”Stay with me“のサビの部分(10音)について、大御所Tom Pettyさんから彼の楽曲”I Won’t Back Down“のコピーだと指摘され、Tom Pettyさんを共同作曲家としてクレジットするという事案がありました1,2,

本件は、2019年にSam SmithさんとNormani Kordieさんがリリースした”Dancing with a Stranger“のサビの部分が、2015年にChristopher Mirandaさんら3名が作曲した”Dancing with Strangers“のサビの部分を利用したとして著作権侵害と訴えられています。

訴状でも引用されていますが、両曲を比較した動画が作成されています3
また、問題とされているフレーズを比較した楽譜は次のとおりです(訴状に添付された音楽博士の意見書より)。

要点は上記のとおりですが、原告は、偶然の一致ではないことを主張して、次のような類似点を指摘しています。

  • 両曲のミュージックビデオで「一人で踊る女性」が共通しているが、楽曲のタイトルから明らかなビジュアルテーマではない
  • 被告曲のミュージックビデオの楽曲タイトルで用いられているロゴ(字体)は、原告の作曲家の一人が用いていた名刺のロゴ(字体)と同一である

依拠性については、上記のとおりフレーズが酷似しているほか、音楽博士の報告書を引用して、楽曲の作りや歌詞等の類似から被告らが原告楽曲にアクセスすることなく独自に創作した可能性は極めて低いと主張しています。
また、原告楽曲は、SoundCloudに投稿され、2018年の時点で50万件の視聴があり、その後YouTube等に投稿して数万の視聴を獲得しており、広く知られていたと主張しています。さらに、被告楽曲をリリースしたThrive Recordsが、2015年に原告楽曲を他のアーティストに使用させることに強い関心を抱いており、交渉を持ったことから、同レコード会社を通じて被告らに原告楽曲が提供されたなどと主張しています。

依拠性はともかく、こうした短いフレーズの類似性について、米国の裁判例は、どちらに転ぶか分からない怖さがあります。肯定例としては”My Sweet Lord”事件や”Under Pressure”事件など。否定例は、”Stairway to Heaven”事件や”Dark Horse”事件など。Damian Riehl弁護士によれば、音楽著作権侵害訴訟の弁護士費用は4500万円から2億円超になるようですので4、こうした費用をかけ、長い時間をかけた結果、侵害が認められ、多額の賠償金や今後のロイヤリティの分配などをしなければならなくなった時には目も当てられません。

日本では、音楽著作権の一部の類似が正面から争われた事案がありません。音楽教室事件の知財高裁R3.3.18は、2小節以内の演奏について演奏権が及ぶかについて、2小節分につきいずれも著作物性がないなどということはおよそ考え難い」としていますが、短くても著作物性が認められるものとそうでないものがありますので、2小節であっても著作物性がないと言い切れない程度の趣旨かと思います。

結局、短いフレーズが著作権侵害と主張されれば、対応しなければならず、裁判所の判断次第ということになりそうです。
個人的には、Damian Riehl弁護士の取り組みが功を奏して欲しいなと思います。

弁護士 大橋卓生

《参照》
[1] https://time.com/3682314/sam-smith-stay-with-me-tom-petty-songwriting/
[2]”Stay with me”について訴訟になった事案としては、Mark Halper氏が1986年に創作した楽曲”Don’t Throw Love Away“の冒頭の歌詞”Stay with me”を、Sam Smithさんが”Stay with me”で利用したとして提訴したものがあります。裁判所は訴えを棄却しています。

[3] https://www.youtube.com/watch?v=Ibh1yPSCIw8
[4] https://www.youtube.com/watch?v=sJtm0MoOgiU&list=WL&index=4&t=508s

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