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2026/08/15ブログ

プリディクション・マーケットは日本で適法かースポーツ・エンタメの実例から

結論からいえば、選挙、スポーツ、受賞、政策決定などの結果に金銭や換金可能な価値を投じ、的中に応じて利益を得るプリディクション・マーケット(予測市場)は、日本では賭博罪に該当するリスクが高いと考えられます。「市場」や「イベント契約」という名称、暗号資産の利用、海外での適法性だけで結論は変わりません。他方、換金・譲渡のできない無償ポイントを用いる社内予測市場や予測コンテストは、設計次第で適法に運用できる余地があります。

プリディクション・マーケットとは

プリディクション・マーケットは、将来の特定事象が発生するかを条件に決済される「イベント契約」を売買し、参加者の情報や予測を価格に集約する仕組みです。発生すれば1ドル、発生しなければ0ドルとなる契約が0.65ドルで取引されていれば、市場が織り込む発生可能性はおおむね65%と読まれます。ただし、流動性、手数料、参加者の偏り等があるため、価格は客観的な確率そのものではありません。

米国では、商品先物取引委員会(CFTC)の監督下で一部の予測市場が運営されています。北谷賢司教授の解説で主要プレイヤーとして取り上げられるKalshiは2020年に指定契約市場となり、QCX LLCも2025年7月9日に指定契約市場となって、現在は「Polymarket US」の名称を用いています。ただし、暗号資産を用いるグローバル版のPolymarketと、米国のCFTC規制下にあるPolymarket USとは、運営主体、提供地域及び取引構造を区別して検討する必要があります。

北谷賢司教授の解説:「賭け」だけでは見えない市場の機能

北谷賢司教授は、PIVOTの解説動画「2030年に1兆ドルへ。プレディクション市場の魔力」及びForbes JAPANへの寄稿で、プリディクション・マーケットを単なる勝敗予想ではなく、多数の参加者が持つ情報や見方を価格に集約する「情報市場」として捉えています。同時に、日本で金融商品として認められるには相当のハードルがあり、国内で制度化されるかは不透明であると慎重に指摘しています。本稿は、この市場・ビジネス面からの先行的な解説と日本導入に関する問題提起を踏まえ、現行日本法上の論点を筆者の責任で検討するものです。

その源流には、アイオワ大学の研究市場があります。CFTCも、1992年にIowa Electronic Marketsを公的に認めたことを米国のイベント契約の出発点として紹介しています。その後、企業内で新製品、売上げ、プロジェクトの成否等を予測する仕組みにも利用され、2024年の米国大統領選挙を機に商業市場が急拡大した、というのが北谷教授の整理です。

北谷教授は、2030年に1兆ドル規模へ成長するとの市場予測も紹介しています。この数値は同教授自身が確定値として断定したものではなく、将来の成長シナリオとして示されたものです。「市場規模」が取引高、未決済契約の名目額、事業者売上げのいずれを指すかでも数値は変わるため、本稿でも将来予測として位置づけます。

予測市場がスポーツ観戦の一部になる

北谷教授が特に注目するのは、予測市場とスポーツ・メディアの融合です。FIFAは、ADI Predictstreetを2026年FIFAワールドカップ初の「公式予測市場パートナー」に指定しました。DAZNも同社との提携を公表し、ライブ配信の前・最中・後に予測へ参加できる仕組みを組み込んでいます。予測価格や参加者の見方それ自体が、試合中に消費されるメディアコンテンツになり始めたといえます。

もっとも、DAZNが米国外で提供したワールドカップ向けサービスは、正解に応じてポイントを獲得し、順位や賞品を競う無料参加型です。これは、金銭を投じて1ドルの払戻しを受ける米国型イベント契約と同じではありません。同じ「予測市場」という名称でも、金銭型、無償ポイント型、賞品付きコンテスト型では、日本法上の評価が異なります。

北谷教授が指摘する日本導入の高いハードル

北谷教授は、米国におけるプリディクション・マーケットの成長可能性を紹介する一方、日本については、金融庁、関係官庁及び政党の姿勢を踏まえると、金融商品として認められるには相当のハードルがあり、国内で制度化されるかは依然として不透明であると述べています。

この指摘の背景には、日米の制度の違いがあります。米国では、イベント契約はCommodity Exchange Act上のデリバティブとしてCFTCの監督対象になり得ます。2024年のKalshi事件でも、連邦地方裁判所は、連邦議会の多数党を予測する契約が同法の特別審査規定にいう「gaming」又は違法行為を伴うものではないとして、CFTCの禁止決定を取り消しました。この判決は、特定の契約と米国法上の規制権限を判断したものです。

スポーツ等のイベント契約を巡っては、2026年にもCFTCの規則整備が続き、州の賭博規制との関係も争われています。北谷教授が示した日本導入のハードルを具体的に理解するため、以下では、日本の刑法及び金融商品取引法に照らして検討します。

実際には何を予測するのか

イメージしやすいよう、米国のCFTCに提出された公開資料で契約内容を確認できる実例をみてみましょう。以下は取引サービスの利用を勧めるものではなく、日本居住者が利用できる、又は日本法上適法であるという意味でもありません。

スポーツの実例:ノースカロライナ対TCUの勝者

Ludlow Exchange LLC(Novig)は、2026年8月12日付けの商品届出で、同月29日に予定された大学アメリカンフットボールのノースカロライナ対TCU戦を対象とする「NCAAF Winner」契約を示しています。参加者が選んだチームが試合に勝てば1契約につき1ドル、負ければ0ドル、引き分けなら双方0.50ドルで決済される設計です。

仮に「ノースカロライナが勝つ」契約を0.65ドルで1口買ったとします。同チームが勝てば1ドルを受け取り、手数料を考えない差益は0.35ドルです。負ければ受取額は0ドルで、支払った0.65ドルを失います。取引価格を「市場参加者が考える勝率」として眺められる点はブックメーカーの固定オッズと異なりますが、金銭を投じて試合結果により得失が決まる点は共通しています。

CFTCへの公開届出には、このほかにも、プロホッケーの点差、プロフットボール選手権の組合せ、冬季五輪の男子アイスホッケー勝者や国別メダル数などを対象とする契約が確認できます。

エンタテインメントの実例:グラミー賞の受賞者

CMEは、2026年1月27日付けの商品届出で、グラミー賞の「年間最優秀アルバム」「年間最優秀レコード」「年間最優秀楽曲」「最優秀新人」の4部門を対象とするイベント契約をCME Globexに上場するとしました。いずれも契約額1ドルの現金決済型バイナリーオプションです。

例えば、ある候補が年間最優秀アルバムを受賞する契約を仮に0.40ドルで買い、その候補が受賞すれば1ドル、受賞しなければ0ドルで決済されます。映画賞の受賞、音楽チャートの順位、番組で誰が取り上げられるかといった出来事も、同じ発想で予測市場の対象になり得ます。なお、CFTCの資料で確認できるのは商品の届出・上場条件であり、個々の契約に実際の売買や十分な取引量があったことまで当然に意味するものではありません。

日本法上のポイント

1 金銭型は賭博罪に該当する可能性が高い

刑法185条の賭博は、一般に、偶然の勝敗によって財物又は財産上の利益の得喪を争う行為をいいます。最高裁判所第一小法廷1948(昭和23)年7月8日判決も、賭博罪は「偶然の勝敗に関し財物をもって賭事又は博戯をする」ことにより成立するとしています。選挙結果、スポーツの勝敗、政策決定等は、参加者が情報を分析して予測しても、最終結果がその確実な認識又は支配の外にある以上、通常は「偶然性」が否定されません。競馬に関する東京地方裁判所2015(平成27)年5月14日判決も、周到な情報分析を行っても、的中が購入者に左右し得ない偶然の事象であることを指摘しています。

したがって、参加者が金銭、暗号資産、換金可能なトークン又は商品交換可能なポイントを失う可能性を負い、結果に応じて利益を得る設計は、参加者について賭博罪が成立する可能性があります。市場価格が参加者間の需給で決まることや、結果確定前に契約を転売できることも、直ちに賭博性を失わせるものではありません。運営者には、態様により刑法186条2項の賭博場開張等図利罪や幇助犯等が問題となります。

2 海外サービスでも、日本国内からの利用は安全ではない

警察庁は、海外で合法的に運営されるオンラインカジノであっても、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪になると明示しています。この注意喚起はプリディクション・マーケットを名指ししたものではありませんが、国内から財産的価値を賭ける以上、海外のライセンスだけで日本刑法上適法になるものではない、という点は共通します。

さらに、2025年9月25日施行の改正ギャンブル等依存症対策基本法9条の2は、国内の不特定多数に違法オンラインギャンブルのウェブサイトを提示する行為や、そこへ誘導する情報の発信を禁止しました。運営だけでなく、広告、アフィリエイト、SNSでの紹介にも注意が必要です。

3 金融商品取引法上のデリバティブとは限らない

金融商品取引法2条は、金融商品の価格・金利、気象観測値、政令で指定された社会経済統計などを参照するデリバティブを規制対象としています。金融庁も、為替相場や株価指数を対象とするバイナリーオプションは店頭デリバティブ取引に該当し、日本居住者に業として提供するには金融商品取引業の登録が必要であると説明しています。

しかし、選挙、スポーツ、受賞、芸能ニュース等の一般的なイベント契約が、当然に金商法上の金融指標又は所定の事由に該当するわけではありません。金融商品取引業の登録を取得すれば、あらゆる予測市場を提供できるという関係にはありません。スポーツ振興くじ(toto)等が適法に実施されているのも、特別法により実施主体、対象、販売、払戻し等が定められているためです。

4 無償ポイント型は設計次第

参加者が何ら財産的価値を失わない仕組みであれば、「財物又は財産上の利益の得喪を争う」とはいえず、賭博罪のリスクは大きく下がります。社内の需要予測、プロジェクト納期予測、研究目的の市場などには、次の設計が現実的です。

  • 参加料、入金又は有料会員登録を参加条件にしない。
  • 予測用ポイントを換金、譲渡、商品交換又は外部売買できないものとする。
  • 賞品を設ける場合、参加者の拠出金を原資とせず、運営者又はスポンサーが負担する。
  • 商品購入者だけを対象としない。購入等に付随する場合は景品表示法上の上限を確認する。
  • 判定資料、判定時点、取消条件及び同点処理を規約に明記する。

「無料配布ポイント」と表示していても、換金・譲渡・商品交換が可能であったり、購入した価値と一体であったりすれば、安全とはいえません。名称ではなく、参加者が実質的に価値を失うかで判断されます。

実務への影響

事業者が予測市場を企画する場合は、少なくとも、①予測対象、②参加者の拠出、③払戻しの原資、④ポイント等の換金性・譲渡性、⑤運営者の手数料、⑥国内向け勧誘、⑦結果に影響できる者の参加、を一体として確認する必要があります。暗号資産を使えば、賭博罪の問題が消えるのではなく、資金決済法等の論点が追加されます。

スポーツ団体や企業は、選手、審判、役職員その他の内部情報保有者による取引を禁止し、情報管理、市場操作、八百長及び利益相反への対応を規程化すべきです。メディアやインフルエンサーも、海外サービスへの直接リンク、紹介コード及び報酬付き誘導を安易に行うべきではありません。

内部情報の問題は仮定にとどまりません。CFTCが2026年2月に公表した事例では、YouTubeチャンネルの編集者が、公開前の動画内容を知り得る立場でそのチャンネルに関する予測市場を取引したとされ、取引所は、不当利益5,397.58ドルの返還を含む合計20,397.58ドルの制裁金と2年間の利用停止を科しました。日本のスポーツ・エンタテインメント事業者にとっても、出演、受賞、配信内容等を知る役職員や委託先の取引ルールを整える必要性を示す例です。

北谷教授が指摘する依存リスクにも注意が必要です。イベント契約は金融取引として設計される一方、結果確定前に売買でき、多数の出来事を連続して取引できるため、利用者にはスポーツベッティングに近い反復性と没入性を生じさせ得ます。依存リスクは賭博罪の成否を直接決める要件ではありませんが、サービス設計上は、年齢確認、入金・損失上限、自己排除、広告表現及び相談窓口などの消費者保護策を検討すべきです。

まとめ

北谷教授の解説は、プリディクション・マーケットが分散した情報を集約し、スポーツ観戦やメディア体験を変える可能性を示すとともに、日本での制度化には相当のハードルがあることを指摘しています。本稿で現行日本法を検討した結果、日本には、選挙やスポーツ等を対象とする金銭型イベント契約を一般的に適法化する制度は、現時点で確認できません。金銭・暗号資産・換金可能ポイントを用いるモデルは賭博罪のリスクが高く、実装するなら、当面は無償・非換金・非譲渡のポイント型を基本とするのが現実的です。

なお、2026年8月14日現在、Polymarket型の予測市場を直接判断した日本の公表裁判例や、金融庁・法務省・警察庁による包括的な公式見解は確認できません。最終的な評価は、具体的な取引構造、予測対象、決済手段及び国内向け提供の態様によって異なります。

弁護士 大橋卓生

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の法的助言ではありません。具体的なサービス又は取引の適法性は、利用規約、決済構造、ポイント設計、対象イベント及び提供地域等を踏まえて個別に検討する必要があります。

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