Film/映画

2022/02/19Film/映画

映画 vs SVOD

映画は、まず劇場で公開され、その後、セルやレンタル、有料配信され、衛星・ケーブル放送を経て、地上波というウィンドウコントロールがなされてきました。
ウィンドウコントロールは、映画の著作権を保有する映画会社が各事業者と契約を締結する際、いつから利用することができるかを合意することで実施されてきました。

ところが、コロナ禍で自宅待機期間が長くなり、SVODサービスが急成長し、反面、映画館での上映が予定どおりいかないことから、映画館での公開と同時にSVODに配信するという”Day and date release”という方法がハリウッドで実施されるようになりました。

最初に実施したのは、知る限り、”Wonder Woman 1984″(Waner Bros.)だったと思います。2020年6月に映画館で公開予定が、コロナ禍の影響で延期したことから、Warnerは、劇場公開と同時にWarner Media傘下のSVODサービスHBO Maxで同時配信しました。
同作品の監督Patty Jenkinsさんのインタビュー1によれば、”It was detrimental to the movie. I knew that could have happened.”と述べています。

従来のウィンドウでは、まず、劇場公開があり、SVODでの配信は二次利用の範疇で劇場公開後に実施されるものでした。
“Day and date release”は、SVODをグループ内に保有するWarnerやDisneyなどの映画会社は、劇場及びSVODから投資を回収することができます。何なら映画館に1回足を運んでもらうより、SVODサービスに加入してもらう方が有益と思われます。他方、SVODを持たない映画会社、映画館、興行収入からボーナスを得る監督や役者など興行収入の配分を期待している当事者の収益は害されることになります。これら当事者もSVODから二次利用の配分を受ける可能性はありますが大きくはないと思います。

こうした問題が提起されている中、DisneyがMarvel Cinematic Universeの”Black Widow”をDisney+で、Warner Bros.がMatrixの最新作”Matrix Resurrections”をHBO Maxで、”Day and date release”し、いずれも訴訟が提起されるに至りました。

“Black Widow”は、主人公Black Widow/ナターシャ・ロマノフを演じるスカーレット・ヨハンソンさん(正確には彼女の個人事務所と思われるPeriwinkle Entertainmnt Inc.)がDisneyを訴えました。
“Matrix Resurrections”は、Warner Bors.とともに共同製作したVillage Roadshow FilmがWarner Bros.を訴えました。

両訴訟とも基本的に契約違反が主な主張です。これらの訴えの内容をみますと、劇場で独占して公開するという文言が契約書に入っていないことがうかがえます。おそらく、従来の契約書では、まず劇場公開がなされ、SVOD等は劇場公開が終わった後の二次利用という前提で書かれており、最初のウインドウである劇場公開にあえて「独占」を付す必要がなかったように思われます。

Black Widow訴訟

ヨハンソンさんは、出演契約で、興行収入からボーナスを得る約束をしていたようです。
DisneyがMarvelに契約違反をさせてSVODで同時配信したことで、興行収入が減り、本来得るべきボーナスが得られなかったというのが基本的な主張です。

肝心の契約違反の部分ですが、劇場公開については次のように記載されています(強調は筆者)。

Lender shall furnish Producer the services of Artist to perform the role of ‘Black Widow’ / ‘Natasha Romanova’ in the theatrical motion picture currently entitled ‘Black Widow’ (‘Picture’). For the avoidance of doubt, if Producer in its sole discretion determines to release the Picture, then such release shall be a wide theatrical release of the Picture (i.e., no less than 1,500 screens).

“exclusive”など明確に劇場公開だけを先行するという記載はありません。
ヨハンソンさん側は、契約相手のMarvelの担当者等のメールのやりとりや過去の作品のウィンドウコントロールの例等を引用して、この契約書の中の”theatrical release”の意味は、映画館のみで独占的に公開することを意味し、その期間は少なくとも90日〜120日間である、と主張しています。

注目を集めた訴訟ですが、2021年9月に和解が成立して、終結しています。

Matrix Resurrections訴訟

こちらは、つい先日、訴えが提起されたばかりです。

Matrixの3部作やJoker、オーシャンズシリーズ、チャーリーとチョコレート工場などヒット作をWaner Bros.と共同出資で共同制作してきた共同著作権者のVillage Roadshow Film(VRF)が原告です。

共同製作した映画の配給はWarner側の広い裁量に委ねる契約になっていたようですが、“consistent with industry standards”(業界標準に合致)し、 “consistent with customary commercial practices in the motion picture industry”(映画業界の商慣習に合致)する方法で配給をしなければならないとされているようです。”Day and date release”はこうした業界標準や商慣習から大きく乖離している、と主張しています。

また、VRFは、ワーナーメディア社内で、コードネームを”Project Popcorn”という、HBO Maxのサブスク収入を増加させ、VRFの興行収入及び関連収入の削減をするための極秘計画の存在を指摘し、”Matrix Resurrections”の”Day and date release”はこの計画の一部だったと主張しています。

VRFの主張は、単に興行収入がサブスク収入に食われるということだけではなく、HBO Maxでの放映は海賊版が容易に作成され、その面でも興行収入に大きなダメージを与えることを主張しています。

この問題がどのように判断されるか興味深いところです。

 

こうした問題の解消方法の1つかと思いますが、Warnerは、2021年、米国大手映画館チェーンと45日間の”Theatrical Window”(HBO Maxでの配信前に45日間の劇場公開)を設けることを合意しています2。今後は、“Day and date release”がありうることを前提に、映画館や監督、俳優など興行収入の配分を期待する関係者は、こうした劇場独占公開期間を契約で設けたり、同時配信を認める場合にはSVODの収益からの補填等を交渉することになるのでしょう。

弁護士 大橋卓生

〔参照〕

[1] https://etcanada.com/news/814159/patty-jenkins-says-releasing-wonder-woman-1984-day-and-date-on-streaming-was-a-heartbreaking-experience/

[2] https://deadline.com/2021/08/amc-entertainment-adam-aron-warner-bros-1234811729/

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