Copyright/著作法

2022/02/23Copyright/著作法

AI創作の著作権登録を否定(米国)

上記の絵は”A Recent Entrance  to Paradise”という作品ですが、著作者は”Creative Machine”です。この”Creative Machine”の所有者であるSteven Thalerさんが職務著作として上記の絵を、2018年11月、米国著作権局(USCO)に著作権登録を申請しました。

USCOは、2018年8月、人間の著作という要件を欠くとの理由で、著作権登録を拒絶しました。
Thalerさんは、2019年9月、USOCに対して、人間の著作要件は憲法違反などと反論しましたが、USCOは、成文法上も判例法も人間の著作であることを要件としているとしました。

今回は、上記USCO決定について再考を求めたものですが、USCOは、その請求を棄却しました1

USCOは、著作権法は「人間の心の創造的な力に基礎とする知的労働の成果」のみを保護するとし、成文法の解釈、判例法、米国著作権局の実務等をあげて論証しています。

Thalerさんの主張の中で、”work made for hire”は人間以外の存在を著作者として認めている、というものがありましたが、USCOは、条文上(17 U.S.C. § 101) 、”a work prepared by an employee”または”one or more ‘parties’ who ‘expressly agree in a written instrument’ that the work is for-hire“とされており、雇用契約ないし職務著作契約を締結して作成された作品をいい、人間の著作であることが必要とされているとして、Thalerさんの作品は職務著作に該当しない、としました。

AIが実用化される前までは、コンピューターは、ペンやブラシと同じように絵や文章を書いたり、作曲する道具であり、人間がコンピューターを使って著作物を創作していると認識できるものした。しかし、AIの実用化が進んでいる現在、AIが自律的に絵や文章、音楽などを創作するようになり、人間が行う活動としては一定のパラメーターを決める、あるいはAIを稼働するボタンを押すという創作とはいえない程度の行為でしかありません。

こうしたAI創作物を著作権で保護するかは、現在、(i)著作物性を否定し、著作権で保護しないとする、または(ii)作品の生成に必要なアレンジした者に著作権を付与する、という2通りの対応があります。
米国著作権法など多くの国は(i)を採用しています。

人間以外の創作が問題となった事例として、数年間に世界中で話題になった、猿の自撮り写真の著作物性の議論を思い出します。

米国著作権局は、やはり人間の創作ではないとして、著作権登録を認めませんでした2
この件は、猿にカメラを勝手にいじられた写真家が著作権を主張し、Wikipediaを無断掲載で訴えていたところ、PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)が、当該猿”Naruto”を代理して、猿自身が著作者だと争った事案です。最終的に和解で解決し、写真家は収益の25%を”Naruto”およびインドネシアの他の猿の福祉または生息地の保護を目的とする登録慈善団体に寄付することになりました3

こうした人間以外の創作にかかる事案は、日本の著作権法でも、特別な規定がないため、米国と同様の結論になるだろうと推察します。

少数派のようですが、(ii)を採用する例として、英国の著作権法が知られています。WIPOによれば、ニュージーランドやインドなども(ii)を採用しているようです。

英国の著作権法は、コンピュータ生成”computer-generated”の定義を次のように定めています。

computer-generated”, in relation to a work, means that the work is generated by computer in circumstances such that there is no human author of the work;

そして、コンピュータ生成による著作物の著作者について、9条(3)で次のように定め、作品の生成に必要なアレンジをした者とする旨定めています。

In the case of a literary, dramatic, musical or artistic work which is computer-generated, the author shall be taken to be the person by whom the arrangements necessary for the creation of the work are undertaken.

コンピュータ生成による著作物の保護期間については、通常の著作物が原則著作者の死後70年であるのに対し、コンピュータ生成著作物は生成された年の終わりから50年と人間の著作の著作物よりも保護期間を狭めています。

If the work is computer-generated the above provisions do not apply and copyright expires at the end of the period of 50 years from the end of the calendar year in which the work was made.

著作者人格権については、コンピュータ生成による著作物については適用されません(78条(2)、81条(2))。

こうした英国著作権法の保護の仕方は、果たして妥当であるかは検討の余地があるように思います。AI創作物は、人間が創作するよりも、容易に、かつ短時間で膨大な量の創作が可能になります。それらが必要なアレンジした人に50年もの間独占されるとなると、人間による創作活動に支障を来すのではないかと懸念しています。

この問題は、短時間で大量に生成され得るAI創作物の著作権による保護は、著作権法の目的である文化の発展にするか否かをよく検討する必要がありそうです。

ところで、こうした流れとは正反対に、米国のミュージシャン兼弁護士のDamien Riehlさんは、米国の音楽著作権訴訟で短いフレーズで侵害認められる傾向にあることから、12音の音のすべての組み合わせをコンピュータで生成し公表し、パブリックドメインにすることで、世に出ていない12音のメロディの組み合わせを使っても著作権侵害にならない、と主張して、WEBサイトにメロディデータを公表しています4

米国著作権局の考え方ですと、著作権で保護されないということになりそうですが、どうでしょうか。

弁護士 大橋卓生

《参照》

[1] https://www.theverge.com/2022/2/21/22944335/us-copyright-office-reject-ai-generated-art-recent-entrance-to-paradise
[2] https://www.finnegan.com/en/insights/blogs/incontestable/monkeys-selfie-not-protectable-u-s-copyright-office-compendium-states.html
[3] https://www.peta.org/media/news-releases/peta-statement-monkey-selfie-case-settled/
[4] http://allthemusic.info

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