Arbitration/スポーツ仲裁

2022/02/25Arbitration/スポーツ仲裁

代表選考とイレギュラーな事態 〔OG22/07〕

北京アドホック仲裁で、4件目の国際ボブスレー・スケルトン連盟の代表選考事案です。これまでの事案は次のとおりです。

OG22/03 女子スケルトンの代表選考
OG22/04 男子2人乗りボブスレーの代表選考
OG22/05 男子スケルトンの代表選考
OG22/07(本件) 女子ボブスレーの代表選考

事案

申立人 ジャマイカの女子ボブスレー選手(ジャマイカ・米国籍)
相手方 国際ボブスレー・スケルトン連盟(IBSF)
関係当事者 フランス・オリンピック委員会(FNOC)等

紛争のきっかけは、2022年1月17日の代表選考のためのオリンピックランキング発表です。女子2人乗りボブスレーのオリンピック・ランキングによれば、申立人は、674ポイントで、フランス人選手と同ポイントでした。それにもかかわらず、IBSFは、最終的にフランス・オリンピック委員会に出場枠を与えました(ジャマイカは次点で補欠筆頭)。

女子ボブスレーの選考は、2022年1月16日までの2021/2022シーズンに開催される(1)ワールドカップ、(2)ヨーロッパカップ、(3)北米カップで獲得したポイントによるランキングで決まるというものでした。ワールドカップのみ出場要件が設けられていましたが、ヨーロッパカップと北米カップは出場要件はありません。各カップとも8レースが予定されていたようです。その後、コロナ禍の影響を考え、ランキング計算に考慮するレースは7レースに修正されました。

申立人は、北米カップ8レースに参加し、成績のよかった7レースで674ポイントを獲得しました。
フランス人選手は、ワールドカップとヨーロッパカップで674ポイントを獲得しました。ヨーロッパ大会は6レースとされていますが、そのうち2021年12月4日のレースは天候の影響でキャンセルとされたものです。これには次のような事情がありました。

2021年12月9日に、IBSFはNF等関係者に、執行委員会決定として、12月4日にキャンセルとなったレースの参加登録者については、12月5日のレースの結果獲得したポイントを2倍にすることを12月6日に決定した旨通知しました。ちなみにフランス人選手は12月5日のレースでは2位だったようです。

カナダ・米国の連盟からはレースをしていないのにポイントを付与することについて抗議がでたようです。
IBSFは、2022年1月10日に、上記執行委員会決定の理由を説明しました。その理由としては、代替レースの設定ができなかったこと、こうした予想しがたい事案については定款上IBSFの執行委員会がその裁量で決定できる旨等でした。

2022年1月31日 申立人はランキングの結果等に対してIBSFの控訴委員会に不服を申立て、2月2日に棄却されたため、CASに不服を申し立てました。
申立人の請求は、次の4点です。

1 女子2人乗りボブスレーのオリンピック・ランキングの無効
2 実際に行われたレースでポイント2倍もせずにオリンピック・ランキングポイントの再計算
3 フランス・オリンピック委員会に代えてジャマイカ・オリンピック委員会に女子2人乗りボブスレーの出場枠を付与すること
4 ISBF及びIOCに対しフランス・オリンピック委員会に追加の出場枠を許可するよう明じること

パネルの判断

1) 当事者適格

フランス・オリンピック委員会から、出場枠はNOCに付与されるものであり、選手に付与されるものではなく、申立人は当事者適格がないと主張し、この点が争われています。
この点、パネルは、過去のCASの先例を多く引用し、保護される直接的な利益があるかを丁寧に認定し、請求の3,4は間接的な利益にすぎず、当事者適格がないと判断しています。

2) 本案

実施していないレースにポイントを付与した執行委員会決定の是非が争点です。

まず、パネルは、IBSF執行委員会決が、ワールドカップ以外のレースがヨーロッパと北米で同数開催することを重視するという方針を採用したこと自体は何ら問題ないと判断しました。
これを前提に、ヨーロッパにおいて代替レースが不可能であったため、極力、影響の少ない形で解決策を早急に見つけなければならなかったこと、12月5日の大会に出場した選手はキャンセルされた12月4日のレースに登録していた選手と同じであること、執行委員会決定後も選考レースは続いており、申立人は1月に開催されたヨーロッパカップの2レースに参加可能であったこと等を考慮しました。

その結果、パネルは、執行委員会決定はIBSFの裁量の範囲内として是認し、申立人の請求を棄却しました。ただし、パネルは、執行委員会決定は、決して好ましいものではないし、推奨できるものではなく、本件で認定された特別な事情の下に、妥協の産物として、ISBF定款22条に基づく裁量の範囲内と認めたものであると釘を刺しています。

コメント

代表選考の機会の均等をいかに考えるべきかという問題かと思います。

本件のようにシーズンを通じて、複数のベストレースの獲得ポイントの累積でランキングを決める場合、出場可能なレースがいくつかあるか、また、いつ開催されるかが選手にとって重要になると思います。

ISBFは、ワールドカップ、ヨーロッパカップ、北米カップの3シリーズを選考大会としました。ワールドカップには出場要件がありますが、ヨーロッパカップと北米カップには出場要件はありません。ワールドカップに出場できる上位の選手は、3シリーズすべてを選考のために利用することができます。ワールドカップに出場できない選手は、ヨーロッパカップと北米カップを利用することになりますが、ヨーロッパ圏の選手はヨーロッパカップで、北米圏の選手は北米カップで選考レースを戦うことを計画することになると思います。

ヨーロッパカップも北米カップも8レースが組まれていました。ヨーロッパカップは2022年1月まで開催されていましたが、北米カップは2021年12月初旬で終了しています。
本件のヨーロッパカップ1レースのキャンセルは、北米カップがすべて終了した後に生じました。このため、IBSF執行委員会は、1レース分の補填を考えたものと思われます。

そのように考えること自体は、パネルが判断したように、特に問題はないと思いますが、実施していないレースにポイントを付与することは、選考ルールに定められているものではなく、機会の均等の観点からも行き過ぎで、結果に影響を及ぼしているように思われます。

選考ルートが複数あって、一のルートでイレギュラーな事態が生じた場合に他のルートに影響を与えずに是正を図ることは難しいと思います。機会は均等に与えていることから、天候という不可抗力でレースがキャンセルされれば、そのレースはなかったものとして扱うという方法もあったように思います。それでは、ヨーロッパ圏の選手に影響が大きいのではないかと考えたのでしょう。気になって執行委員会のメンバーをみると米国人1名を除いてほかはヨーロッパ人で構成されていました。

ISBFは、苦肉の策として12月5日に実施したレースの結果が12月4日にも得られたであろうという仮定で12月5日に獲得したポイントを2倍としたものと思います。この点は、パネルも指摘しているとおり、12月4日にレースを行っていれば、同じ結果になったとは思われず、合理性があるとは思われません。申立人は、執行委員会決定が差別的だとか、新たな選考基準を遡及適用したことが問題だとか主張していますが、ポイント2倍付与というISBFの解決策の合理性を争う方法や執行委員会のメンバーのヨーロッパ偏向を争う方法もあったのではないかと思います。

ところで、ISBFについては4件仲裁が申し立てられました。本件以外の3件は、ISBFの代表選考システムに起因するもので、余った出場枠を次点になった国のNOCないし選手が自分に割り当てるよう主張したものです。これは各競技毎の出場枠総枠を設定したうえ、NOC毎の出場枠上限を設定するというシステムで、NOCの選考で各種目(例えば男子2人乗りボブスレー・4人乗りボブスレー)で選手が被った場合、NOCの出場枠は埋まるが、出場枠総枠に余りがでることになります。ルール上はNOC枠が埋まればそれを超えて出場枠は与えられませんが、次点の国・選手は総枠に余りがあるなら割り当ててほしいと考えるのだと思います。これは今回のオリンピックだけではなく、過去も同じような不服申立が繰り返されているようです。

弁護士 大橋卓生

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