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2026/06/03Film/映画

AI映画にデリー高裁が差止命令:インドで進む「声・肖像・AI生成物」の人格権保護

2026年1月、インド・デリー高等裁判所は、AIによって生成された映画が若年著名人の氏名・肖像・声・人格的特徴を無断利用したとして、公開停止と削除を命じる仮差止命令を出しました。

AIによる声のクローンやディープフェイクが世界的な問題となる中、本件は、AI生成映画に対して人格権・パブリシティ権侵害を認めた注目事例といえます。

事件の概要

原告は、Akira Nandan氏です。原告は著名なテルグ映画一家の出身であり、自身も映画出演や音楽活動を行い、一定の知名度とファン層を有すると主張しました。なお、『テルグ映画』とは、インド南部のテルグ語で制作される映画産業(いわゆる『トリウッド(Tollywood)』)を指します。近年では『RRR』や『バーフバリ』シリーズなど世界的ヒット作品を生み出しており、インド最大級の映画市場の一つです。

問題となったのは、被告が制作した約1時間のAI生成映画「AI LOVE STORY」です。同映画は「世界初のグローバルAI映画」としてYouTube上で公開され、テルグ語版だけで約110万回再生されていました。

原告は、AIで自身の顔や人格的特徴を再現したこと、本人の許諾なくAIアバターを生成したこと、恋愛・親密な場面を創作したこと、偽アカウントや寄付募集に利用されたことなどを問題にしました。

問題視されたのは映画だけではない

本件で興味深いのは、問題とされたのが映画本編だけではないことです。

判決の別紙には、AI生成映画、YouTubeショート動画、AI生成恋愛動画、AI生成音声、Instagram投稿、Facebook投稿、X投稿、偽アカウント、寄付募集アカウントなど、合計47件のURLが列挙されています。

裁判所は、こうした利用が一般公衆に対して、本人が関与している、本人が承認している、本人が推奨している、といった誤認を生じさせる危険があると評価しています。

インド法上のパブリシティ権

インドには、包括的なパブリシティ権法は存在しません。

それにもかかわらず、デリー高裁は従来から、判例法によって人格権・パブリシティ権を認めてきました。本件でも裁判所が中心的先例として引用している2010年のDM Entertainment判決を法的根拠として引用しています。

インド法上のパブリシティ権は、立法によって明文化された権利というより、判例法上、人格権、プライバシー権、passing off、不法行為的発想を組み合わせて発展してきた権利といえます。

AI時代における「声」の保護

本件で特に注目されるのは、裁判所が保護対象として、裁判所は、氏名、写真・画像、肖像・容貌の類似性、人格的特徴(persona)、声、話し方の特徴、仕草、ポーズ等を、無断利用の差止対象として明示しました。

差止命令は、AI生成版の声や話し方についても、無断利用を禁止しています。

日本でも近年、声のクローン技術に関する法的議論が急速に進んでいます。本件は、AIによる音声再現が人格権・パブリシティ権の問題として扱われることを明確に示した事例といえます。

裁判所の判断

裁判所は、原告がエンタテインメント業界やファン層の間で一定程度知られており、氏名・容貌・声などによって本人として識別され得ること、AI映画の主人公として利用されたこと自体が原告を本人として想起させる独自の外見的イメージ及び人格的特徴を示すこと、人格やイメージへの損害は金銭賠償では回復困難であることを理由として、暫定的な差止めを認めました。

その結果、AI映画の公開停止、関連動画の削除、氏名・肖像・声・人格的特徴の無断利用禁止、Deepfakeコンテンツの削除、Metaに対する削除対応命令、アカウント保有者のIP情報等の提供命令が出されています。

コメント

本件は、単なるディープフェイク事件ではありません。裁判所は、AI生成映画という新しい表現媒体に対しても、従来の人格権・パブリシティ権の法理が適用されることを明確に示しました。

特に注目すべきなのは、保護対象が顔や氏名にとどまらず、声、話し方、身振り、ポーズ、キャラクター性、人格的特徴全体へと広がっている点です。

日本では、声のクローンやAIアバターを直接規律する包括的立法はまだ存在しません。しかし、本件のような海外裁判例が積み重なることで、今後は「声」や「人格的特徴」そのものの法的保護が、肖像権・パブリシティ権の重要な論点になっていくと考えられます。

弁護士 大橋卓生

出典

Delhi High Court, Mr. Akira Desai alias Akira Nandan v. Sambhawaami Studios LLP & Ors., CS(COMM) 68/2026, Order dated 23 January 2026.

Delhi High Court, DM Entertainment Pvt. Ltd. v. Baby Gift House, CS(OS) 893/2002, decided on 29 April 2010.

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