2026/07/27Competiton Law/競争法
リーグワン「A-1・A-2」新制度を考える―国内育成と選手の競技機会、独占禁止法上の論点
ジャパンラグビー リーグワンは、2026-27シーズンから、選手の登録区分にA-1・A-2という新たな区分を導入する予定です。
これに対し、海外出身で日本国籍を取得した選手らが、公正取引委員会への申告と、東京地方裁判所に新制度の差止めを求める仮処分を申し立てたと報じられています。
結論からいいますと、新制度は国籍を直接の区分基準としていません。そのため、直ちに「国籍差別で無効」と結論づけることはできません。
もっとも、新制度によって、これまでカテゴリAであった選手の出場機会や契約条件が不利になる可能性があります。
問題は、国内選手の育成という目的と、選手の競技・就業機会を制限する手段との間に、合理的で必要な関係があるかです。
新制度の内容
現在のリーグワンでは、選手はカテゴリA、B、Cに区分されています。
リーグワンが公表した概要によれば、2026-27シーズンから、他協会での代表歴がない選手をA-1とA-2に分けます。
A-1となるのは、国籍にかかわらず、次のいずれかに該当する選手です。
* 日本の義務教育年代9年間のうち6年以上を日本で過ごした選手
* 日本で出生した選手
* 両親又は祖父母のうち1人が日本で出生した選手
これらに該当せず、日本協会に48か月以上継続して登録された選手等はA-2となります。ただし、日本代表30キャップ以上のA-2選手は、A-1に区分されます。
試合登録23人のうちA-1を14人以上、同時出場15人のうちA-1を8人以上とする予定です。A-2のチーム全体での登録人数に上限はありませんが、試合ではB・Cの選手と同じ枠を使うことになります。
リーグワンの試算では、2024-25シーズンのディビジョン1における平均的な試合登録は、A-1相当が12.2人、A-2相当が5.8人でした。
単純計算では、A-1を14人に増やすと、A-2の枠は5.8人から4人程度に減ります。新制度が一部の選手の出場機会に影響することは、制度上予定されているということになります。
なお、現在公表されている「選手契約および登録に関する規程」には、まだA-1・A-2が条文化されていません。最終的な規程、経過措置、不服申立手続については、今後の公表を確認する必要があります。
選手側の申立て
報道によれば、海外出身で日本国籍を取得した選手27人は、2026年4月20日、新制度が独占禁止法に違反するとして、公正取引委員会に申告しました。一部の選手は、東京地方裁判所に差止めの仮処分も申し立てています。
リーグワンは、同月30日、影響を受ける選手への説明が不足していたことを認めましたが、制度を見直す予定はないとしています。
2026年7月27日現在、公正取引委員会の判断や東京地方裁判所の決定は、公開資料上確認できません。また、申告書や仮処分申立書も公表されていません。
したがって、選手側が独占禁止法上のどの違反類型を主張しているのか、仮処分の被保全権利をどのように構成しているのかは不明です。
競技ルールと独占禁止法
スポーツには、試合を成立させ、戦力の均衡を図るため、一定の共通ルールが必要です。
しかし、「競技上のルール」であるというだけで、独占禁止法の適用を受けないことにはなりません。
公正取引委員会は、2019(令和元)年、スポーツ分野の移籍制限ルールについて、独占禁止法上の考え方を公表しています。
そこでは、ルールの目的が合理的か、その手段が目的達成のために相当か、制限が必要な範囲にとどまるか、より制約の小さい代替手段がないかを検討するとしています。
この考え方は、移籍制限ルールを対象とするものです。今回の新制度に対する公正取引委員会の見解ではありません。
ただし、出場枠が選手の獲得、契約更新、報酬、移籍可能性に影響する以上、同じような視点から検討する必要があります。
法的に争う場面では、リーグとクラブの関係、選手が労働者に当たるか、関連する選手市場をどのように捉えるか、実際にどの程度の競争制限効果が生じるかが問題になります。
また、「不公正な取引方法」のどの類型に当たり得るかも、具体的な制度設計や運用実態によって変わります。
なお、独占禁止法24条に基づく差止請求と、公正取引委員会への申告は別の手続です。公正取引委員会に申告しただけで、新制度の効力が停止するわけではありません。
問題は「目的」よりも「手段」
国内の若い選手を育成し、リーグワンを目指す環境を整えることは、正当な目的になり得ます。
リーグワンがこのような目的を掲げること自体に問題があるわけではありません。
問題はむしろ、A-1の基準が、その目的に適したものかです。
A-1には、日本でラグビーの育成を受けたこと自体を要件としない「日本出生」や「親・祖父母の出生地」も含まれます。
反対に、高校年代以降に来日し、長年日本でプレーし、日本国籍を取得した選手であっても、原則としてA-1には移れません。
この線引きが、クラブによる若年選手への育成投資や、国内の競技人口の増加にどの程度つながるのかは、現在の公表資料からは明らかではありません。
また、30キャップという例外も、客観的で分かりやすい基準ではあります。しかし、ポジション、負傷、代表戦数、選考方針によって、キャップを得られる機会は異なります。
国内育成という目的との関係でも、なぜ「30」であるのかは、説明を要すると思います。
既にカテゴリAとして活動してきた選手への経過措置も重要です。
既存選手の適用除外、段階的な導入、国内在籍年数による移行、個別審査など、選手への不利益を小さくする方法が考えられます。
こうした代替手段と比較せずに、一律の区分を導入するのであれば、制限の必要性や相当性について、より慎重な説明が求められます。
「国籍差別」といえるか
新制度は、日本国籍の有無によってA-1とA-2を分けていません。
日本生まれの外国籍選手がA-1になる一方、海外生まれで日本国籍を取得した選手がA-2になる場合があります。
したがって、「日本国籍を取得した選手を外国人扱いする制度」と表現するのは、制度の内容を正確に表していません。また、直ちに国籍差別として無効になるともいえません。
もっとも、出生地や親・祖父母の出生地は、人種、世系、民族的又は種族的出身と結び付くことがあります。
形式上は国籍を基準にしていなくても、特定の出自を持つ選手に不利益が集中するのであれば、その効果と合理性を検証する必要があります。
スポーツ基本法は、人種等にかかわらずスポーツの機会を確保し、不当に差別的な取扱いをしないことを基本理念としています。
ただし、この規定だけから、私人間のリーグ規程が直ちに無効になるわけではありません。規程の合理性やスポーツ団体のガバナンスを考えるうえでの重要な基準になるという位置づけです。
代表資格とは別の問題
リーグワンは、新制度が、出生地や親・祖父母の出生地等を基準とするワールドラグビーの代表資格と整合すると説明しています。
しかし、代表資格は、どの協会の代表チームでプレーできるかを決める制度です。
これに対し、今回の制度は、国内クラブにおける試合登録や同時出場を制限するものです。規制の目的と選手への影響が異なります。
したがって、ワールドラグビーの代表資格と似た基準であることだけで、国内リーグにおける制限が当然に正当化されることにはなりません。
国内リーグで同様の基準を採用するのであれば、その基準が国内育成という目的とどのように結び付くのかを、別途説明する必要があります。
海外のホームグロウン制度
EU司法裁判所は2023年12月21日、Royal Antwerp Football Club事件(C-680/21)で、UEFA等のホームグロウン選手ルールが、クラブ間の選手獲得競争と労働者の自由移動を制限し得ると判断しました。
若手選手の採用・育成は正当な目的になり得ます。しかし、その制度が実際に育成を促し、目的に照らして過度な制限になっていないかは、別途検討する必要があるとしています。
特に、同じ国内協会に所属する別のクラブで育成された選手まで「ホームグロウン」と扱う制度が、個々のクラブによる若手育成への投資を実際に促すのかが問題となりました。
EU法が日本に直接適用されるわけではありません。
ただし、「ホームグロウン」という制度名だけで判断せず、育成目的との具体的な関連性と制限の程度を検証する考え方は、今回の問題にも参考になります。
実務への影響
リーグワン
法的に許されるかどうかとは別に、ガバナンスとして最も重要なのは、制度の根拠と影響を説明できることです。
最終規程を早期に公表したうえで、制度目的、想定する効果、クラブ別・ポジション別の影響を、できる限り客観的なデータで示す必要があります。
そのうえで、影響を受ける選手との協議、経過措置、定期的な見直し、不服申立手続を整備することが望まれます。
国内育成を進めるのであれば、アカデミー在籍や育成年代の競技登録を基準とする方法、若手大会の充実、育成に取り組むクラブへの支援など、目的により直接つながる選択肢とも比較すべきです。
クラブ
リーグ規程が導入されることと、個別の選手に対する減俸、契約終了又は不更新が当然に合理化されることは別問題です。
カテゴリだけを理由に機械的な判断をせず、契約上の根拠、競技上の必要性、選手への説明、代替的な選択肢を個別に検討し、記録に残す必要があります。
特に、新制度の導入を理由として既存契約の条件を途中で変更する場合には、契約条項や選手の同意の有無を確認する必要があります。
選手
選手側は、契約書、従前のカテゴリ、クラブからの説明、更新交渉、報酬提示、出場機会の変化を記録しておくことが重要です。
仮処分や差止請求では、制度が不合理であるという一般論だけでなく、契約や出場機会にどのような具体的な不利益が生じるかを示す必要があるからです。
また、独占禁止法上の主張だけでなく、契約上の権利、労働者性が認められる場合の労働法上の保護、リーグやクラブの説明義務など、複数の法的構成を検討する必要があります。
実務上の対応
リーグワンと各クラブには、少なくとも次の対応が求められます。
- A-1・A-2を定める最終規程と判定手続を早期に公表する
- 各基準と国内育成目的との関係を、データに基づいて説明する
- 現在の所属選手やポジション別の影響を検証する
- 既存選手に対する経過措置を設ける
- 区分判定に関する不服申立手続を整備する
- 影響を受ける選手及び選手会と協議する
- 導入後の効果を検証し、一定期間後に制度を見直す
- クラブによる契約終了や減俸が一律に行われないよう運用指針を示す
まとめ
リーグワンの新制度については、「国内選手の育成」と「海外出身選手の権利」のどちらを優先するか、という二者択一で考えるべきではありません。
国内育成は重要な目的です。
他方で、そのために選手の出場・契約機会を制限するのであれば、A-1の各基準が目的に適合しているか、不利益が必要な範囲にとどまるか、より制約の小さい方法がないかを検証する必要があります。
法務の立場からは、制度を実施してから問題が生じた場合に対応するのではなく、施行前に根拠と影響を明らかにし、当事者との協議を重ねることが、紛争の予防とリーグへの信頼確保につながるものと思います。
免責事項:本稿は、2026年7月27日現在の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的な事案では、最終的な規程、選手の契約形態、クラブからの説明、実際に生じる不利益、証拠状況等により結論が変わり得ます。
主な参考資料
一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン「2026-27シーズンから選手の登録区分に追加カテゴリ導入のお知らせ」2025年5月13日](https://league-one.jp/news/4562)
A-1・A-2の区分基準、試合登録人数等の制度概要。
一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン「2026-27シーズンからの選手登録における登録区分 追加カテゴリ導入に関して」2026年4月30日](https://league-one.jp/news/5804)
制度の目的、選手への説明、リーグワンの試算及び制度見直しに関する見解。
一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン「選手契約および登録に関する規程」2025年11月18日改正(https://league-one.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/file/menu/17336_693ba16f7e9e6.pdf)
現行の選手契約・登録制度。A-1・A-2の最終的な条文化は要確認。
公正取引委員会「スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方」2019(令和元)年6月17日(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190617.html)
スポーツ団体による競争制限ルールの目的、必要性及び相当性を検討する際の参考資料。
公正取引委員会「差止請求制度についてのQ&A」(https://www.jftc.go.jp/dk/seido/minjikyusai/siso07.html)
独占禁止法24条に基づく私人による差止請求の対象及び手続。
スポーツ基本法(https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC1000000078)
スポーツ機会の確保及び差別的取扱いに関する基本理念。
外務省「人種差別撤廃条約」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html)
人種、皮膚の色、世系、民族的又は種族的出身に基づく区別等に関する国際的枠組み。
World Rugby, Regulation 8: Eligibility to Play for National Representative Teams(https://www.world.rugby/organisation/governance/regulations/reg-8)
出生地、親・祖父母の出生地等に基づく代表資格の基準。
Court of Justice of the European Union, Judgment of 21 December 2023, Royal Antwerp Football Club, C-680/21(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:62021CJ0680/)
ホームグロウン選手ルールとクラブ間競争・労働者の自由移動に関するEU司法裁判所判決。
EU司法裁判所「Royal Antwerp Football Club事件」プレスリリース、2023年12月21日(https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2023-12/cp230205en.pdf)
同判決の判断内容を要約した公式資料。
ラグビーリパブリック「リーグワンの新カテゴリーに選手たちが反発」2026年5月1日](https://rugby-rp.com/2026/05/01/domestic/141638)
選手による公正取引委員会への申告及び東京地方裁判所への仮処分申立てに関する報道。

