2026/07/30Video Game/ゲーム
Stop Killing Gamesとは何か ”ゲームの「サービス終了」をめぐるEUの回答と日本法への示唆”
購入したゲームが、運営会社のサーバー停止によって二度と遊べなくなる――。この問題を提起した「Stop Killing Games」は、約129万件の有効署名を集め、EUを動かしました。EU委員会は恒久的なプレイ可能性を義務づける立法を見送りましたが、表示、約款、返金、終了手続をめぐる法的リスクは、むしろ具体化しています。
発端となった『The Crew』の終了
【確認できた事実】
Ubisoftは2023年12月14日、オンライン接続が必須だったレースゲーム『The Crew』について、2024年3月31日にサーバーを停止し、以後はすべての対応プラットフォームで利用できなくなると発表しました。理由として、サーバー基盤とライセンス上の制約を挙げています。
([Ubisoftの発表](https://www.ubisoft.com/en-us/game/the-crew/the-crew-2/news-updates/3u0la29yUBGBzYlwKp5QMZ/an-update-on-the-crew))
フランスの消費者団体UFC-Que Choisirは2026年3月、この措置について、不当条項や誤認を招く販売方法があったと主張してUbisoftを提訴したと公表しました。もっとも、これは原告側の主張であり、違法性が司法判断によって確定したものではありません。
([UFC-Que Choisirの発表](https://www.quechoisir.org/action-ufc-que-choisir-jeux-video-l-ufc-que-choisir-assigne-ubisoft-en-justice-suite-a-la-fermeture-du-jeu-the-crew-n175318/))
EU市民イニシアチブが求めたもの
Stop Killing Gamesの一環として行われたEU市民イニシアチブの正式名称は「Stop Destroying Videogames」です。2024年6月に登録され、2025年7月まで署名を集めた結果、129万4,188件の有効な支持表明を得て、2026年1月にEU委員会へ提出されました。欧州議会の公聴会や本会議での討論を経て、EU委員会は同年6月16日に正式回答を公表しています。
([EU市民イニシアチブ公式ページ](https://citizens-initiative.europa.eu/stop-destroying-videogames-commissions-reply-european-citizens-initiative_en))
提案の核心は、販売・ライセンスされたゲームを、商業的な提供の終了後も「合理的にプレイ可能な状態」に残すことです。ただし、無期限のサーバー運営、ソースコードの開示、著作権や収益化の利益の譲渡まで求めるものではありません。主催者は、すでに販売済みの作品ではなく、今後開発されるゲームを対象とする趣旨も説明しています。
EU委員会は立法を見送った
【法制度】
EU市民イニシアチブは、100万人以上の署名を得ても直ちに法律になる制度ではありません。EU委員会には回答義務がありますが、立法提案を行う義務まではありません。
([制度の公式説明](https://citizens-initiative.europa.eu/how-it-works_en))
EU委員会は、ゲームをプレイ可能な状態に残す一律の法的義務について、次の事情から比例性を欠くと判断しました。
- 著作権、商標権、営業秘密や第三者ライセンスとの抵触
- オフライン版や代替サーバーの開発・検証費用
- セキュリティ、チート対策、モデレーション上の危険
- 運営終了後もブランド上の責任が残るおそれ
他方、EU委員会は「事業者が自由に終了できる」とだけ結論づけたわけではありません。既存のEU消費者法により、契約期間、終了条件、オンライン接続への依存、機能制限などを契約前に明確に表示する必要があると整理しています。終了を決定した後も課金を継続する場合、その情報を消費者に伝えないことが不公正な商慣行となる可能性があります。
また、消費者が合理的に期待できる時期より早くサービスを終了すれば、デジタルコンテンツ指令上の契約不適合となり、契約終了や比例的返金の対象となり得ます。理由や予告期間が不明確な一方的終了条項も、不当条項と評価される可能性があります。もっとも、同指令のサービス終了への適用について、EU司法裁判所の判例はまだありません。
([EU委員会の正式回答・C(2026) 4110 final](https://citizens-initiative.europa.eu/document/download/75d642bc-6ff5-4713-b1cf-14f4aaf15869_en?filename=C_2026_4110_EN.pdf))
EU委員会は2026年末までに、業界と消費者団体による終了時対応の行動規範を検討し、デジタルコンテンツ指令の適用状況も報告する予定です。したがって、今回の回答は運動の全面的な勝利でも敗北でもなく、「恒久運営の義務化」から「表示・約款・返金・終了設計」へ議論の重心を移したものと評価できます。
日本ではサービス終了が違法になるか
【法制度】
日本には現在、ゲーム一般について、販売後も恒久的にプレイ可能な状態を維持するよう一律に命じる規定はありません。しかし、「ライセンスである」「いつでも終了できる」と規約に書けば、常に責任を免れられるわけでもありません。
経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」は、期間の定めがないデジタルコンテンツ利用契約について、事前告知と十分な周知期間を置けば終了できる可能性がある一方、周知期間が不十分な場合には契約が終了せず、債務不履行責任が生じる可能性があると説明しています。「十分な期間」は事案ごとの判断です。
([経済産業省・2025年2月改訂版](https://www.meti.go.jp/files/900015316.pdf))
東京地方裁判所令和元年12月18日判決は、スマートフォンゲームの終了をめぐる事件で、60日前の通知により終了できる旨が規約で事前に示されていたこと、永続的な提供が困難というソーシャルゲームの特性、終了後も継続すると誤信させる直接的な課金勧誘が認められなかったことなどを踏まえ、利用者の請求を棄却しました。もっとも、個別事情に基づく地方裁判所判決であり、あらゆる一方的終了条項を有効としたものではありません。
([国民生活センターの裁判例整理・事例15](https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20201210_1.pdf))
突然の終了、終了方針決定後の積極的な課金誘導、理由のない広範な終了権、責任の全部免除などについては、民法上の契約責任や信義則に加え、消費者契約法8条・10条などが問題となり得ます。有償の未使用ゲーム内通貨が資金決済法上の前払式支払手段に当たる場合には、利用終了時に同法20条に基づく払戻手続も必要です。
([金融庁「商品券(プリペイドカード)の払戻しについて」](https://www.fsa.go.jp/policy/prepaid/))
ゲーム事業者が準備すべきこと
Stop Killing Gamesが示す最大の実務的教訓は、「サービス終了」を終了直前の広報問題ではなく、開発開始時からの製品・契約設計として扱うことです。
- 認証、マッチング、セーブ、課金、UGCなど、サーバー依存機能を設計段階で分類する
- ライセンサーやミドルウェア提供者との契約で、オフライン化、保存、終了後利用の権利を確認する
- ストア画面でオンライン接続の必要性、終了可能性、最低予告期間、終了後に失われる機能を明示する
- 終了方針決定後は、新規販売、課金キャンペーン、広告表現を法務・消費者対応の両面から再点検する
- 未使用通貨、前払料金、個人データ、問い合わせ窓口について終了手順をあらかじめ定める
- ゲームの性質に応じ、オフラインパッチ、限定モード、民間サーバー用資料、文化保存機関との連携を検討する
まとめ
現時点で、ゲーム会社に無期限の運営を求める一般的な法制度は、EUにも日本にもありません。しかし、終了時期と機能制限を適切に説明し、合理的な予告と返金対応を行う責任は、すでに既存法の中にあります。
今後の争点は、「終了できるか」だけではなく、「消費者に何を約束し、いつ知らせ、終了後に何を残すか」です。サービス終了時の炎上や紛争を避けるためにも、エンド・オブ・ライフ設計を開発、知財、利用規約、販売表示の共通課題として扱う必要があります。
※本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件についての法律意見ではありません。
主な参考資料
* [EU委員会「Stop Destroying Videogames」正式回答(2026年6月16日)](https://citizens-initiative.europa.eu/document/download/75d642bc-6ff5-4713-b1cf-14f4aaf15869_en?filename=C_2026_4110_EN.pdf)
* [経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」](https://www.meti.go.jp/files/900015316.pdf)
* [国民生活センター「消費者契約法に関連する主な裁判例等」](https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20201210_1.pdf)
* [金融庁「商品券(プリペイドカード)の払戻しについて」](https://www.fsa.go.jp/policy/prepaid/)

